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「くたばりやがれ! “死を呼ぶ黒焔の──”」
「────“首なし能力者”」
一体、何が起こったのだろう。
取り敢えず分かることは、私は助かったのだということ。そして私を助けてくれた人が、同年代の少女だということだ。
彼女は「可愛い」と「美しい」が絶妙に混ざり合った容姿をしていた。
ラベンダーのような薄紫の髪に、透明感のある白い肌。アメジストのような深紫の両目は、男を力強く睨んでいた。
少女が男の炎を一瞬で打ち消すその様子は、まるで小説の中での出来事のようで。
黒いマントを身に纏う姿は、いつしか読んだ絵本の中の魔女を彷彿させた。
ちなみに男はというと、先程の威勢から打って変わって小刻みに震えていた。
「なっ……『ロナード』!? こんな所にいるなんて聞いてねぇよ!?」
「──異界の管理神エルバードは、力無き愚か者の争いに憂い、罰を与えた。これは能力者でも同じことが言えるの」
「な、何が言いたい!」
「これ以上は口を慎むの。せめて、あなたが最善の選択をすることを願うだけなの」
「……くっ、そぉ!」
男が走り去っていく。ひとまずの危機は逃れたようで、野次馬の人達もそれぞれ散っていった。
──ロナード。異界。エルバード。そして能力者。
聞き取れたのはその単語だけだ。しかしその単語の羅列は、男が起こした現象も相まって、ここが私の知る場所ではないことを証明していた。
ロナードと呼ばれた少女は、私の方へ顔を向ける。先程までの厳かな雰囲気が抜け、その視線は穏やかなものだった。
「怪我は大丈夫なの?」
「え、あ、はい。大丈夫です」
嘘だ。さっきから意識が朦朧としている。正直、目を開けているのがやっとだ。
「助けていただいてありがとうございます。えっと……ロナードさん?」
「サナ・ロナードなの。あなたの名前を伺っても?」
マイリア、と答えると、サナは少し驚いたように目を見開く。しかしすぐ元の表情に戻り、私を真っ直ぐに見つめた。
見れば見るほど不思議な少女だ。人間離れした容姿をしているのに、表情にどこか人間臭さを感じる。それに彼女を見ているとどうも眠く──。
「実は、あなたに聞きたいことがあるのだけど……マイリア?」
強烈な眠気が私を襲う。
逆らう暇も無く、私はそのまま意識を手放した。
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