23人が本棚に入れています
本棚に追加
***
「あ、起きたの」
目を開けると、そこには人間離れした美少女がいた──ではなく。
「たしか……サナ、さん?」
「そうなの。ここはわたしの住処の一室なの。急に意識を失ったから、ひとまずここに連れて来たの」
そうだ、サナだ。
彼女の説明を聞く限り、私はあの後眠ってしまったらしい。体の痛みがいつの間にか消えているのが不思議だ。
周りを興味深く見回していると、洞窟を改造して住んでいると説明を受けた。たしかによく見ると、部屋が石壁や丸い天井で囲まれているのが分かった。センスの良いタペストリーが何枚も飾られていて、どこか民族的な印象がある。街の高級宿にも似ているが、サナの住居と言われると何だか変な感じがする。
「そういえば、あなたはあの街で見ない顔のようだけど……どこから来たの?」
「あー……グリフレート街、創造神グリフィスの大聖堂がある街です。ある人を探していて、今は旅をしてるんです」
グリフレート街。今となっては懐かしい故郷の名だ。
都心部から少し外れてはいるが、他方から多くの参拝者がやって来るため、活気に溢れた街だった。名前を言えば大体は「ああ、あそこね」と反応が返ってくるのだが、サナの場合は少し違った。
「グリフレート街……やっぱりなの。ところでマイリア、ここの管理神の名前は分かるの?」
「え? 女神カデラじゃないの?」
予想外の質問に思わず敬語が外れる。人間界の管理神、その名は女神カデラ。グリフィス神とはまた違った存在で、聖堂で誰もが最初に知る神の名前だ。しかし何故急にその話になるのだろうか。
『異界の管理神エルバードは──』
いや違う、何か変だ。ここが人間界だとしたら、あの男が生み出した光景は何なんだ。そして目の前のサナだって、あの炎を打ち消すという不思議な力を使って助けてくれた。それはまさに、絵本や聖堂の教科書で見た能力者かのように。
────まさか。
「ここの管理神はエルバード、つまりここは異界なの。マイリア、どうやらあなたは人間界の隠れ能力者だったようなの」
「……そう、なんだ」
その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かがストンと落ちた。やはりと言うか、異界が慣れ親しんだ人間界ではなかったのだ。
それに、僅かだが可能性を感じた。どんなに探しても手掛かりがない、たったひとり家族。信じられないかもしれないけど、その人は異界にいるんじゃないかって。右も左も分からないこの世界に迷い込んだことは、むしろ好都合だったかもしれない。
「あまり驚かないの。少し意外なの」
「うーん、サナと会った時点で薄々感じてたのかも。ところで、この写真を見てくれる?」
「これは?」
「私の幼い頃の写真らしいよ。となりの茶髪の子が、私が探してる家族」
「なるほどなの。……ところでマイリア、らしいと言うのは?」
「私ね、幼い頃の記憶がないんだ。それで、何か知ってることはある?」
写真に目を通したサナは軽く目を閉じ、考え込む姿勢をとった。せめて今までとは違った意見が出てくることを祈るばかりだ。
「…………この子、見覚えがある気がするの」
最初のコメントを投稿しよう!