何てことのない、普通の日常

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 *** 「あ、起きたの」  目を開けると、そこには人間離れした美少女がいた──ではなく。 「たしか……サナ、さん?」 「そうなの。ここはわたしの住処(すみか)の一室なの。急に意識を失ったから、ひとまずここに連れて来たの」  そうだ、サナだ。  彼女の説明を聞く限り、私はあの後眠ってしまったらしい。体の痛みがいつの間にか消えているのが不思議だ。  周りを興味深く見回していると、洞窟を改造して住んでいると説明を受けた。たしかによく見ると、部屋が石壁や丸い天井で囲まれているのが分かった。センスの良いタペストリーが何枚も飾られていて、どこか民族的な印象がある。街の高級宿にも似ているが、サナのと言われると何だか変な感じがする。 「そういえば、あなたはあの街で見ない顔のようだけど……どこから来たの?」 「あー……グリフレート街、創造神グリフィスの大聖堂がある街です。ある人を探していて、今は旅をしてるんです」  グリフレート街。今となっては懐かしい故郷の名だ。  都心部から少し外れてはいるが、他方から多くの参拝者がやって来るため、活気に溢れた街だった。名前を言えば大体は「ああ、あそこね」と反応が返ってくるのだが、サナの場合は少し違った。 「グリフレート街……やっぱりなの。ところでマイリア、ここの管理神の名前は分かるの?」 「え? 女神カデラじゃないの?」  予想外の質問に思わず敬語が外れる。人間界の管理神、その名は女神カデラ。グリフィス神とはまた違った存在で、聖堂で誰もが最初に知る神の名前だ。しかし何故急にその話になるのだろうか。 『の管理神エルバードは──』  いや違う、何か変だ。ここが人間界だとしたら、あの男が生み出した光景は何なんだ。そして目の前のサナだって、あの炎を打ち消すという不思議な力を使って助けてくれた。それはまさに、絵本や聖堂の教科書で見たかのように。  ────まさか。 「ここの管理神はエルバード、つまりここは異界なの。マイリア、どうやらあなたは人間界の隠れ能力者だったようなの」 「……そう、なんだ」  その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かがストンと落ちた。やはりと言うか、異界(ここ)が慣れ親しんだ人間界ではなかったのだ。  それに、僅かだが可能性を感じた。どんなに探しても手掛かりがない、たったひとり家族。信じられないかもしれないけど、その人は異界にいるんじゃないかって。右も左も分からないこの世界に迷い込んだことは、むしろ好都合だったかもしれない。 「あまり驚かないの。少し意外なの」 「うーん、サナと会った時点で薄々感じてたのかも。ところで、この写真を見てくれる?」 「これは?」 「私の幼い頃の写真らしいよ。となりの茶髪の子が、私が探してる家族」 「なるほどなの。……ところでマイリア、らしいと言うのは?」 「私ね、幼い頃の記憶がないんだ。それで、何か知ってることはある?」  写真に目を通したサナは軽く目を閉じ、考え込む姿勢をとった。せめて今までとは違った意見が出てくることを祈るばかりだ。 「…………この子、見覚えがある気がするの」  
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