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音の出所はタペストリーにぶら下がった小さな鈴だった。細かく揺れながら、鈴たちは余韻を鼓膜に残していく。
「ええ、マイリアならそう言うと思ったの」
予想通り、と言わんばかりに頷くサナ。
「ただしなの、マイリア。ナユリスに会うよりも、まず異界へに慣れることが必要なの。少なくとも、他の能力者に攻撃された時に対処出来るように能力を鍛えるの」
「ああ、さっきの能力者みたいな人ね……」
「本来は無秩序な能力者は滅多にいないはずなの。それでも持つものは最大限利用出来た方が良いの。異界に来たばかりのマイリアには、知識が圧倒的に足りないの。それをわたし達が教えるの」
「いいの?」
もっちろん! とリンノとカエノが答える。よく見ると、2人の顔の眉辺りに赤いペイントがされているのが分かった。エスニックなものを感じる。
「だってリン、ナユだって育てたんだからね!」
「お前……あいつのオカンちゃうやろ」
「言葉のアヤですうー! それにナユの能力育成にひと役買ったのはリン達じゃん!」
「それならわたしはナユリスのママなの」
「サナまで変なこと言わんといて!? 今じゃあいつと見た目年齢そんな変わらんやろ!?」
「……ふふっ」
他愛もない会話を続ける3人を横目に思わず笑いが溢れる。この人達は、きっといい人だ。
右も左も分からないようなこの世界でも、意思を持つ者は根本的なところは変わらない。それに気付いた私は、心の底から安心感を覚えた。
「……私、決めた。この洞窟で生きるための知識を身に付けるよ。そしていつか絶対、私の家族を見つけてみせるよ」
夕飯までゆっくり休むように言われて3人が出ていく。部屋は私ひとりだ。
ボフッ、と音が聞こえる勢いでベッドに倒れ込む。何だか疲れた。肌触りの良いシーツがとても心地よい。
今日はたくさんのことが起こった。泥棒犯から荷物を奪い返し、その犯人に殺されそうになり、美少女に助けられ、いつの間にか異界に迷い込んでいたことを告げられ、そして家族の手がかりを見付けた。およそ1か月程の経験をした気がする。
「ユーリア……」
……いや、気を抜くな私。この名前を口に出してはいけない。いつだってそう言い聞かせていたはずだ。
ふうっと大きく息をつき、胸元のペンダントを取り出した。半透明の小さな球体の中で揺蕩う蒼い石は、普段は何の音もしないくせに、指で弾くとリィンと綺麗な音がする。──その音は、まさに数分前に聞こえた鈴の音にそっくりで。
「……まさかね」
目を閉じる。意識が沈んでいく。
────リィンッ────
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