3.磯村さんが来てくれた(1)

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磯村さんが突然店に来てから3週間以上経っている。もしまた来てくれるのなら、そろそろかなと思っている。 6時少し前に電話が入る。磯村さんからだった。店には客がまだいない時間なので、何でも話ができるのを見計らってだと思う。気配りのできる人だ。 「今日、店へ行ってもいいかな?」 「いいですよ、是非いらしてください」 「何時ごろに行けば良い?」 「何時でもいいですが、遅いほどいいです。店を閉めるまで待ってもらわないといけないから」 「それなら、11時過ぎに寄らせてもらいます」 「待っています」 こちらの都合の聞き方も磯村さんが考えてのことだと思うけど、こう答えておけば、磯村さんは店に来たら余計なことを考えなくても待っていられて良いと思った。そういえば今日は週末の金曜日だった。 あの仕事を離れてから別の仕事を探したけれど、私に務まるような仕事は見つからず、結局安易なスナック勤めをすることになった。客商売には慣れているし、夜の仕事に特段の抵抗もなかった。 ただ、お客さんとの安易な付き合いには気を付けた。誘われても、一緒に帰ったり、昼間に外で会うようなことはしなかった。 お客さんと特別の関係になりたくなかったし、先輩から言われていたように、男に騙されないように、と言うのがずっと身についていたからかもしれない。 だからHはそれ以来しなかったし、我慢できないときは一人で慰める以外なかった。それが今までの私には無難だった。 磯村さんと再会した時は、正直嬉しい気持ちもあった。彼は私の好みでもあったけれど、私を3軒目まで通ってくれた人だから、一応気心は知れているし、私をだましたりできそうな人ではないようだった。 だから安心してHができる都合の良い相手と思った。当然、2人の関係も秘密にしておいてくれる。
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