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ここまで僕の話を聞いて、
「いや、特に何も起きていないじゃあないか」……
と思われた方もいると思う。
僕もそうだった。
しかし、僕は、今はこう考えている。
僕はもしかしたらもう既に、グリーンカーディガンおばさんに追われている最中なんじゃないか。
引っ越した先で見た、小さな扱いのネットニュースに、それは載っていた。
検索に何かの拍子で引っかかって表示された、普通なら見逃してしまいそうな、小さいニュースに、僕は見入った。
あのマンションの近くの道路で、また、一人の女が飛び出して引かれたとあった。
その女は、水色のカーディガンを着ていた。
ニュースの日付を見る。
僕がランドリーであの女に出くわした翌朝だった。
あの地下室の蛍光灯は極端に黄色かった。
あそこで服が緑に見えたということは、実際にはその服は水色だったのではないか?
ということは、僕が見た女はグリーンカーディガンおばさんではない。
ただの、マンションの住人だ。
でも、あの場に、グリーンカーディガンおばさんもいたのではないか。
あの女は、獣のように歯を剥いていたのではない。
目の前の、丸窓のついた、誰も使わないはずの一番奥の乾燥機の中身を見て、驚愕した顔だったのではないか。
古い建物に潜んでいるという、そいつを見つけてしまったんじゃないか。
そして、目が合ってしまった。
それから追われて、車道へ飛び出した……。
交通事故で死んだ男。
あいつもあの地下室で、グリーンカーディガンおばさんの名前を口にしていた。それを聞かれていたんじゃないのか。
ならば、あの夜僕が呼んだその名も、水色の服の住人ではなく、乾燥機の中にいた本人に聞こえてしまっていたことになる。
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