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目を合わせ、顔を見られた女は、翌日を待たずに殺された。
声を聞かれただけの男は、襲われるまでに三日かかった。
僕は運良く、グリーンカーディガンおばさんに到達される前に引っ越したから助かっただけではないのか。
彼女がただの異常者なのか、そうではない存在なのかは分からない。
しかしあの時死んだ男の様子からすると、「彼女」に対抗する手段というのは、ないと考えた方がいいのだろう。
だとすると、ひとつ問題がある。
「彼女」は、どれくらいの執念を持って、標的を追いかけるのだろう。
あのマンションの中でだけ?
いや、あの異常者の噂はマンションの外、ここら一帯にも広がっていると聞いた。
ここらって、どこだ?
町内?
区内?
それとも……
僕は本当に逃げ切れているのか?
この一年の間に、僕は既に三度引っ越した。
友人からも不審がられ、親からは叱られている。
何かが潜んでいそうな物陰は、東京に出てきた時よりも、ずっと恐ろしく感じられる。
かといって、田舎に帰ることもできない。
もし実家にそいつが現れてしまったら。そう考えただけで、僕は正気を保てる自信がないからだ。
そして、僕は近所に不審者の噂が出る度に震え上がり、引っ越しをする。
そんな風だから、洗濯機を回している間は、……たとえ昼間でも、目を見開いて周囲を見回しながら、グリーンのカーディガンが現れないか、奥歯を鳴らし、獣のような顔をして、ただ怯えている。
終
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