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とはいえ僕のマンションはそんなに大層な代物ではなく、七階建てで外からの見た目は立派だけど、よくみるとあちこちの柱にひびやシミがあって、夜歩いていると充分気味が悪かった。
僕の住んでいた四階から上は途中で建て増ししたものらしいし、建物の中の廊下も曲がりくねり、いびつな形の地下室など、いかにも思い付きで無理を繰り返した建築という風情だった。日陰と物陰が多く、昼間でも暗い。
自室に洗濯機をつけることもできたけど、地下室にはランドリーがある。
ただ、設備も洗濯機もかなり古いようで、あまり使われてはいないようだった。
僕はひっ迫した経済的事情から、そこを利用する数少ない住人だった。
なるべく昼間に使うようにしていたけれど、何度か、やむを得ず夜に洗濯することがあった。
その時の気味の悪さは、特筆ものだ。
まるでこのマンション、いや、この街に、生きている人間は自分一人なんじゃないかと思えてくる、異様な孤独感。
暗い灰色のひび割れた壁。時折瞬く、切れかけた、淀んだ真っ黄色の蛍光灯。
湿って汚れたコンクリートの床に、五基並んだ洗濯機と、その上に据えられた乾燥機。
ただ、一番奥の一基は洗濯機・乾燥機ともずっと壊れているし、奥から二番目はもの凄く汚くてとても使えない。
いきおい、手前の三基のどれかを選ぶことになる。
遠くないうち、全て使えなくなりそうなくらいくたびれているけれど。
よくある古いコインランドリーと同じように、乾燥機は手前側に丸い窓がついていて、その中で洗濯物が無機質に回転するのが見える。
ゴウンゴウンと回るそれらを見ていると、やかましい音に紛れて、今にも死角から何かが現れそうで、僕はいつもまんじりともせず入り口をじっと見張っていた。
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