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それから、三日ほど経ったある深夜。
寝ようとした僕の部屋のドアが激しくノックされ、ベッドの中で飛び上がった。
インターフォンの画面を見る。
なんと、あの男だった。暗い廊下で、目を剥き、髪を振り乱している。
「開けてくれ!」
「な、なんですか!? こんな時間に!?」
「その声、ランドリーの時の子か! 頼む入れてくれ!」
どうやら僕を狙って訪ねてきたのではなく、偶然らしい。
「来たんだ! あれ、あんなの、だめだよ! なあ!」
「あれって?」
「だから、ぐ……あれだって! な!?」
先日の男の余裕は、完全に消え去ってしまっていた。
そのあまりの恐慌ぶりに、僕の方が怖気づいてしまう。
部屋に入れていいのか? この人こそ不審者ではないのか?
「あの、なぜ、うちなんです?」
「全部の部屋ノックしてきたんだよ! 誰も出ない! 寝てるのか居留守なのか、畜生! やっと君が出てくれて!」
確かに聞いたことがある。防犯上の理由で、都会のマンションでは、知らない人が訪ねてくると居留守を使い、時には宅配便も受け取らないでやり過ごすとか。
しかしこの男の様子では、他の住人が応対する気にならないのも仕方ない。
「あの、もっと詳しく説明してもらえませんか? 何がどうしたんです?」
「だからあいつなんだよ! いいから! なあ!」
「誰かに追いかけられてるんですか? なら、こんなところにいるより下へ降りてマンションから逃げた方が――」
「下に降りる!? ふざけるな、下行けってふざけんなよお前!」
男は、僕の部屋のドアノブをガキンガキンと凄まじい力で回し出した。
「ちょっと、やめてください!」
「開けろ! 開けろ! 開けないとお前――殺すぞ! お前! 殺す!」
僕はすっかり腰が引けて、とてもドアなど開けられない。
「あの、だから――」
「うわあああああ!!」
男の悲鳴がして、続いて、駆け出すような足音が響いた。画面から男が消える。
廊下を、僕の部屋から更に先へ進むと、非常階段がある。
そこをガンガンと踏み鳴らす音。上がっているのか、下がっているのかは分からない。
その時、インターフォンの画面の中を、何かがすっと横切った。
白黒画面で、画像も荒いので、それが何なのかは判然としなかった。
けたたましい男の足音は、やがて遠くなり、そして、マンションには静寂が戻った。
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