グリーンカーディガンおばさん

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■  ここまで僕の話を聞いて、 「いや、特に何も起きていないじゃあないか」…… と思われた方もいると思う。  僕もそうだった。  しかし、僕は、今はこう考えている。  僕はもしかしたらもう既に、グリーンカーディガンおばさんに追われている最中なんじゃないか。  引っ越した先で見た、小さな扱いのネットニュースに、それは載っていた。  検索に何かの拍子で引っかかって表示された、普通なら見逃してしまいそうな、小さいニュースに、僕は見入った。  あのマンションの近くの道路で、また、一人の女が飛び出して引かれたとあった。  その女は、水色のカーディガンを着ていた。  ニュースの日付を見る。  僕がランドリーであの女に出くわした翌朝だった。  あの地下室の蛍光灯は極端に黄色かった。  あそこで服が緑に見えたということは、実際にはその服は水色だったのではないか?  ということは、僕が見た女はグリーンカーディガンおばさんではない。  ただの、マンションの住人だ。  でも、あの場に、グリーンカーディガンおばさんもいたのではないか。  あの女は、獣のように歯を剥いていたのではない。  目の前の、丸窓のついた、誰も使わないはずの一番奥の乾燥機の中身を見て、驚愕した顔だったのではないか。  古い建物に潜んでいるという、そいつを見つけてしまったんじゃないか。  そして、目が合ってしまった。  それから追われて、車道へ飛び出した……。  交通事故で死んだ男。  あいつもあの地下室で、グリーンカーディガンおばさんの名前を口にしていた。それを聞かれていたんじゃないのか。  ならば、あの夜僕が呼んだその名も、水色の服の住人ではなく、乾燥機の中にいた本人(・・・・・・・・・・)に聞こえてしまっていたことになる。
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