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「マジカルチョコレートミラクルゥ?ダメダメ、うちはそういうふざけたの受け付けてないから。くだらない思い出作りなら、自由研究でしなさい。」
過剰なまでに髭の整えられた眼鏡男は、提出されたレポートの表紙を見るなりそう言った。背後には一面ガラス張りの壁。まるでビル群を背負うように、男は革張りの椅子の背に寄りかかっていた。でも、と言いたげな少女__間宮に向かってあからさまなしかめ面をすると、隣に立つスーツの男に、おい、と声を掛けた。つまみ出せ、ということだろう。小柄な少女はいとも簡単に抱えられ、豪奢な部屋から退場していった。僕もその後を追いかけるように静かに部屋を後にする。不機嫌そうに煙草の煙を燻らせる男に、小さく頭を下げて。
「はーっ、また駄目だったなあ。いいアイデアだと思ったんだけど。」
間宮は、んー、と大きく背伸びをすると、背後の高層ビルを振り返ることなく歩き出した。我が物顔で冬の街を闊歩する北風が、彼女の綺麗な黒髪を揺らして通り過ぎていった。間宮のネーミングセンスがひどすぎるんだよ。言いかけた言葉は胸の奥にぐっとしまい込んだ。きっとこの言葉は、彼女には届かないから。寒い寒いと文句を言いながら、間宮はコートのポケットに手を突っ込んで歩き続けた。その手を僕に握らせてよ、なんて言えないし、もう絶対に実現しないのだけど。「シノミヤ先端科学研究所」の文字は、もうとっくに小さくなっていた。
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