僕は大声で君に声援を贈る

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僕は二人を見るのが辛かったから 仕事を理由にみんなで 会うのは避けていた。 そのうち転勤で海外勤務、 数年前上司の勧めで遅めの結婚をした。 妻は年若いがよく気が利いて優しい女。 来年は二人目も産まれる。 穏やかな結婚生活だと思っている。 でも、たまに佐田に会って 美咲の話が出てくると、 甘い疼きはいつも… 甦ってしまうのだった。 「この店、卒業生のたまり場なのよ」 麻理子が言うと、 「私もついつい週末は飲みに来ちゃうの」 「美咲と酒は合わないなあ」 「大滝君は知らないでしょうけど  並の男子より飲んじゃうのよ」 「麻理子もじゃない」 酔いが回って美咲の頬が染まってる。 「ほぼ卒業生がお客だと、この人、 “ドォーン“って鳴らしちゃうから  校歌が始まるの、ふふ」 「いいね!歌うかい?」 佐田が調子よく歌い出す。 中尾が合わせて太鼓。 楽しげに歌っていた美咲がふいに 「バカだなあ、高杉。  こんな時間を持てずに死んで・・・」 一瞬の静寂・・・。 『ブレーキの跡がなかったんだ』 事故直後に言った中尾の言葉が過る。 中尾、佐田と視線が絡んだ。 「ごめん!雰囲気壊して、ごめん!」 美咲が慌てて謝ると 「よし、今夜はトコトン飲んで、  天国の高杉君に聞こえるように  歌っちゃおう!」 麻理子に応えて中尾が“ドォーン“! 佐田と僕が競技会の応援歌を始める。 泣き笑いの美咲の顔を 僕らは見守っていた。
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