僕は大声で君に声援を贈る

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僕は大声で君に声援を贈る

駅前はずいぶん変わっていた。 改札を出るとやや坂道の商店街が 正面に長く続いて、 たくさんの人が買い物で 溢れていた30年前、 今は見る影もない。 僕らの高校はその商店街を抜けて 更に山へ向かう丘。 自転車で通うのに 骨が折れたのを思い出す。 「よお!大滝」 改札でノスタルジーに浸っていたら、 佐田が後ろから声をかけてくれた。 「中尾?中尾か!」 佐田と現れた中尾とは15、6年ぶり。 「商店街の真ん中に俺の店があるんだ」 しばらく行くと 「前は酒屋だったとこか?」 看板には“居酒屋なかお“とあった。 「麻理子と二人でやってるんだってさ」 佐田が中尾を小突きながらニヤリとした。 「お前達、結婚したのか?」 「最近なんだ、また付き合い出したのは」 「びっくりだろ?俺もさっき聞いたんだ」 佐田・中尾・麻里子、 僕とあと二人、高杉と美咲。 僕らは高校3年間を共に過ごした。 入学式で意気投合して クラス替えになっても 6人揃って映画に海水浴、 山にも出掛けた。 とりわけよく行ったのは陸上競技会。 美咲と高杉は陸上部のエースだった。 「これ、懐かしいだろ?」 中尾が大太鼓を店の真ん中に持ってきた。 「どうしたんだ?」 佐田が聞くと 「開店祝いに応援団がくれたの」 麻理子が答えた。 中尾は応援団の団長をしていたから。 “ドォーン・・・ドォーン“ 照れ臭そうに中尾が打ち鳴らす。 僕の脳裡に高校生の美咲が浮かぶ。 小さなウサギが獰猛な敵から 逃げるように瞬間で ゴールをきるスプリンター。 佐田はもちろん多くの男子生徒が 美咲に恋をした。 けれども美咲には高杉がいた。 同じ陸上部の長距離ランナー。 二人は学園アイドルだった。  中尾の打つ太鼓に合わせて 皆が二人に声援を揚げる。 僕らはまさしく青春の中にいた。 理想のように二人は体育大学へ進学、 結婚。美咲は教員になり、 高杉は駅伝選手で更にヒーローとなり、 社会人選手になり、 引退後はその会社の監督をしていた。 でも、 「成績不振で解雇されたらしい」 佐田から噂を聞いた直後、 高杉は死んだ。
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