1人が本棚に入れています
本棚に追加
高校に行ったら自分の楽器を買って、いっしょに吹奏楽部に入ろう。希望者が多すぎて学校の部活に入れず、幼なじみと約束したのはおととしの春のことだ。
「高校受験がんばるならって、おじさんたちがお年玉多めにくれたんでしょ? ちょうど楽器屋さんもお正月セールで値引きしてたし、新年早々ツイてるよね! いいなぁ」
「半分は貯めたので出したし、絶対第一志望受かるって約束させられたけどね。和葉はトランペットだっけ」
「そう! でもまだ半分も貯まってないんだ~」
もこもこしたダウンコートの肩を落としてぼやいている和葉だ。心なしか頭のポニーテールまでしなびて見える。……ここで勉強の進み具合を聞くのはかわいそうだな、うん。
年が明けてまだ数日。近所にある神社は、今日も人が多くてにぎやかだ。初詣のついでに受験突破の祈祷もしてもらおう、という和葉の発案だったんだけど、うちに戻って楽器を置いてからの方がよかっただろうか。両手でしっかり抱えたケースを眺めて考えていると、
「あ、知り合い発見!」
元気よく和葉が指さした先に、紺色のコートを着た人影があった。人でごった返す参道の脇、鳥居のそばに立っているのは、確かに見覚えのある男の子だ。
幼なじみは振り返って『しーっ』という仕草をすると、背後から忍びよっていった。すっごく楽しそうだ。そして、
「ちぇすとーっ!!」
「どわあッ!?」
なぜか鹿児島県伝統の掛け声で(たぶん去年ハマってたドラマのせいだ)飛びついたところ、まったく気付いていなかった相手が飛び上がって驚いた。大急ぎで振り返って、和葉を見つけて切れ長の目を吊り上げる。
「って、月島か! おどかすなよ」
「だってクラスメートがいたから。あけましておめでとー、海道くん」
「おめでとーじゃねえ!」
海道くんとはあんまりしゃべったことがないけど、確か吹奏楽部の部長さんだったはず。あっちも私の顔は覚えていたみたいで、こちらを見てあっという顔をした。……と、思ったら、和葉をつかまえてだだだっと鳥居の向こうまで走っていってしまった。あれ?
「おいっ何で朝倉までいるんだよ!?」
「いっしょにお参りに来たの。羽依ね、高校でクラやりたいんだって。海道くんはサックスだけど、吹き方だけでも教えてあげれば? お近づきになれるよ~」
「出来るか!」
「……あのー、お二人さんー」
最初のコメントを投稿しよう!