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 照れくさそうに泳いでいた視線が、私が抱えているクラリネットのケースに止まった。首をかしげて聞いてくる。  「なあ、それ楽器か?」  「うん、クラリネット。さっき買ったばっかりなんだ、よかったら見る?」  「お、おう」  実は早く触ってみたくてしょうがなかったのだ。話を振られたのでさっそく近くにあった建物の縁側にケースを置いて、ドキドキしながら開けてみた――ら。  「「「えっ?」」」  『……ふわぁ』  海道くんも含めて、中身を見た全員の声がきれいにハモった。それもそのはずで、  『よく寝た~……あっ、あなたが私の(あるじ)でいらっしゃいますね! どうぞお見知りおきを!』  ……楽器本体の上でぴょこん、と頭を下げたのが、ちょっと小さめだけどちゃんと翼もある、どこからどう見ても黒いドラゴンにしか見えない生き物だったからだ。
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