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そのまま無言で見つめあうこと、数秒間。
ばたん。
『むぎゅっ』
真っ先に動いた海道くんが、ケースのフタを無造作に閉めた。中からちょっと苦しそうな声がした気がする。
「……えっ、ちょ、海道くん!?」
「きゃーっ何すんのさコーチ!」
「やかましい! 見てない、おれは何も見てないぞ!」
「しっかり見たでしょ全員で! なんかドラゴンっぽいものがちょこんと座ってたでしょ、ついでにしゃべったじゃんかー!」
「言うんじゃねぇ月島! 全部見なかったことにして忘れたいっておれの気持ちも察してくれっ」
「だってドラゴンだよドラゴン! ファンタジー界のキングオブボスキャラだよ!? 関わったら絶対おもしろいってば!」
「おもしろいことあるかぁ!! おれはトカゲの目とウロコが生理的にダメなんだーっっ」
とても具体的な例を挙げつつ、ケースを抱えたまま後退る海道くん。再び顔が真っ青になっているので、私が幻を見たわけじゃなかったみたいだ。そして和葉も適応力が高いなぁ。
いや、のん気に考えている場合じゃなかった。幻じゃないならケースに動物が閉じ込められてるわけで、下手したら窒息するじゃないか!
「海道くんごめん、それ貸して!」
「いっ!? いや、でも」
「いいからっ! 見たくないならあっち向いてて!! 渡してくれなきゃ殺ドラゴン罪で訴えるからね!?」
「ええええ!?」
片手を突き出して迫ってみたら、必死さが伝わったのか力がちょっと緩む。その隙にえいやっとばかりケースを奪い取って開けると、中ではドラゴンっぽい子がぐったりしていた。あ、危なかった……!
「大丈夫? ごめんね、みんなびっくりしちゃって」
『……い、いえ、こちらこそ驚かせてしまってすみません。ありがとうございます』
「どういたしまして~」
「……なんか朝倉、雰囲気がいつもと違った」
「そりゃそうだよ、羽依は虫とか小動物とかが大好きだもん。ご近所でも有名だよ~」
「……おれ、虫も苦手なんだけど」
「平気平気、愛さえあればノープロブレム! がんばれコーチ!」
「こっぱずかしいこと堂々と言うなっ」
ほへー、と息をつきながら健気なことを言ってくれるドラゴン君。なんか可愛いなぁとにこにこしてしまう私の後ろで、あとの二人のそんな会話が聞こえていた。うんうん、要は慣れだと思うよ。がんばれ海道くん。
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