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……あいつの目が、「助けて」と。そう言った気がしたんだ。
「ぅわっ!?」
「わあっ!?」
電車の揺れを利用して、男達にぶつかる。
「…すみません」
男達は興が冷めたのか、ブツブツ文句を言いながら背を向ける。女はぽかんと口を半開きにして、その場に突っ立っている。
…タイミング良く、電車が止まった。
「…行くぞ」
「え、あ」
強引に手を引き、電車を飛び出す。…運がいいというかなんというか、そこはちょうど学校の最寄り駅だ。
「…あんた、大丈夫か」
「え…」
「事情は知らないけど、アレ合意じゃないだろ。…だよな?」
一応聞けば、そいつは小さく頷く。
「…具合は?」
「大丈夫」
「学校、行けるか」
「うん」
「…なら、行くぞ」
学校まで、徒歩十分。
道行く同じ制服の生徒たちが、ちらちらとこちらを見るが、気にせず歩く。
(…ヘアゴムも、ダサい丸眼鏡も、香りを抑制するタイプのものだ。これだけつけていても香りを振りまくなんて、どれだけの特異体質なんだ)
「…あの」
「…なんだ」
「転校生、だよね」
「ああ、そうだけど」
「…部活、決めた?」
「決めてないが…」
今向かっている薬袋坂高校は、県下ワーストのFラン校だ。道行く生徒達も制服を思い思いに着崩している。部活動も、一応加入を義務付けられてはいるが、幽霊部員な者も多いらしい。
「……うちの部活、入る?加入するだけでも、いいよ」
「…考えとく」
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