第一話

3/3
前へ
/3ページ
次へ
 ……あいつの目が、「助けて」と。そう言った気がしたんだ。 「ぅわっ!?」 「わあっ!?」  電車の揺れを利用して、男達にぶつかる。 「…すみません」  男達は興が冷めたのか、ブツブツ文句を言いながら背を向ける。女はぽかんと口を半開きにして、その場に突っ立っている。  …タイミング良く、電車が止まった。 「…行くぞ」 「え、あ」  強引に手を引き、電車を飛び出す。…運がいいというかなんというか、そこはちょうど学校の最寄り駅だ。 「…あんた、大丈夫か」 「え…」 「事情は知らないけど、アレ合意じゃないだろ。…だよな?」  一応聞けば、そいつは小さく頷く。 「…具合は?」 「大丈夫」 「学校、行けるか」 「うん」 「…なら、行くぞ」  学校まで、徒歩十分。  道行く同じ制服の生徒たちが、ちらちらとこちらを見るが、気にせず歩く。  (…ヘアゴムも、ダサい丸眼鏡も、香りを抑制するタイプのものだ。これだけつけていても香りを振りまくなんて、どれだけの特異体質なんだ) 「…あの」 「…なんだ」 「転校生、だよね」 「ああ、そうだけど」 「…部活、決めた?」 「決めてないが…」  今向かっている薬袋坂高校は、県下ワーストのFラン校だ。道行く生徒達も制服を思い思いに着崩している。部活動も、一応加入を義務付けられてはいるが、幽霊部員な者も多いらしい。 「……うちの部活、入る?加入するだけでも、いいよ」 「…考えとく」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加