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前日の軍議で、総大将に呪いや祟りに策などないと言われたあと、副将とその家臣は酒を酌み交わした。
「本当に策はないのか?」
副将は声を上げて笑った。
「呪いや祟りなどのまやかしがあるのだから、何でもありではないか?」
「さすれば、殿?」
「おぬしらは戦でどこを刺しどこを斬る?」
「わしの槍は、首の根や心の臓など急所を一刺しで仕留めますぞ」
「わしの太刀はまず手足を斬り、動きを制する、それから首をかっきります」
副将は笑いながら言った。
「それでは、おぬしらも一刺しで死んでしまうわ」
「ほう、もっともじゃ」
副将はもう笑わなかった。
「よいか、まず腹の右を深くさす。肝の臓に斬り込むのだ。さすれば、腹の中は血だらけじゃが、体はまだ動くはずだ。手足は決して傷つけてはならぬ。おのれが動けなくなるからな。そして、次の敵を同じく刺す。もし敵がわしらより三倍の数がいれば、そうやってまず二人を仕留める」
「三人めは?」
「三人めはもう首を落とせばよかろう。おのれの介錯をできるなぞ、一興よ」
親書を手渡すとき、家臣たちは素早く耶磨登の家来の数を数え、指を折り確認した。
「三人・・・か」
そして、副将が倒れると同時に、太刀を取り、敵二人の右わき腹を刺し、三人めの首を落とした。耶磨登本丸はさながら地獄絵図のように、おびただしい血と、副将の家臣全員の首、そして、それと同じ数の耶磨登の家来の首が転がっていた。
黒田の陣では、総大将が副将の帰りを待っていた。しかし、様子がおかしい。ひとりの家臣が進みでた。
「殿、若殿が夕刻まで戻らなければこれをお渡しするようにと・・・」
「何?」
それには、副将と家臣たちの命がけの策と、遺言が書かれていた。
「おぬしの命をかけるほどの戦ではないものを・・・」
副将にとっては戦の大きさや敵の強さが問題ではなかった。武士の誇り、それに命をかけたのだった。
すぐに、耶磨登から降伏の伝令があった。すでに殿様も重鎮もすべて本丸で屍となっていた。もはや、戦う理由がなかった。耶磨登の国は取り潰され、その子孫は九州から逃れ細々と生き延びたのだった。
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