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再び手術室
「それ、手術中に長々話すことか?しかも、頸動脈とか肝臓とか、お前の脚色だろう」
「へへへ、でもちょっと面白い話しでしょう?この患者は、その耶磨登の国の末裔だと信じてるんですよ。つまり、この患者が手術を拒否した理由というのは、手術ということがこの患者たちにとって・・・」
外科部長は患者の腹部にそっと触れてみる。
「こうやって、つん、つん、と触ると、なんとなく腹がくすぐったいような・・・つねってみると・・・いててて。麻酔の先生は・・・・」
麻酔医は相変わらず手術開始直後から白河夜船である。
「あれ、部長、まさか信じてるわけじゃないですよね?」
「まさか。そうやって電メス持ってじゅうじゅう焼いているお前が全然大丈夫だからな」
「ですよね」
「しかし、患者と家族は信じていたのだろう?それならなぜ手術を承諾したのだ?」
「そうそう、それ。胃の手術ってどうゆうものか聞かれたんですよ。それで、ぼくは以前胃潰瘍の穿孔で胃を全摘しているもんですから・・・」
「何?君には胃はないのか?」
「だからアボカドと・・・」
「それで食が細いのだな」
「そうですよ。ぼくが胃の手術を受けたことがあるって聞いてから、急に手術に乗り気になってくれましてね。なんつうか、同じ痛みを分かち合える人だって思ってくれたんでしょうかね」
「いや、それはちょっと違う理由なんじゃないか・・・」
「それで家族が何度も聞くんですよ。執刀は先生がして下さるんですよねって。それならお任せいたしますって。まあ、本当は部長がするんですけど、めんどくさいんではいはいって返事しときました」
「そうなのか、君には痛むはずの胃はないのだな。いてて・・・。そこ、もう少し丁寧に縫っとこうか」
そう言うと外科部長は意識を失った。
「先生!部長先生~?」
〜終〜
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