手術室

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 二人は手術をするのが好きだ。自分たちが勉強したことで患者の命を救うことができる、手術が終わり、患者が退院するとき、患者や家族からの感謝の言葉が何よりの生き甲斐なのだ。しかし、今手術を受けているこの患者とその家族は少し違っていた。  外科部長は自分の腹をさすりながら、助手に尋ねる。 「ところで、君、この患者は最初手術を拒否していたそうだね?」 一心に止血と縫合をしながら若い外科医は手を休めることなく答える。 「はい、そうなんですよ。まったくこまったもんでしたよ。超簡単な手術で絶対心配ない、ってちゃんと話したんですけどね」 「なにが超簡単な手術だ!神の手を持つ私に、失敬な!」 「あ、失言、失言。ふつうの外科医なら超難しいんですけど、神の手を持つ部長にかかると超簡単だって意味ですよ」 「うむうむ、君もわかってきたな」 助手は看護師に向かってこっそりつぶやく。 「ほら、単純だろ?」 「聞こえてるぞ。まあ、いい。では、手術拒否の理由は何だったのかね?確か、家族もみな反対だったというが」 「そうなんですよ。ふつうは頑固な禿おやじが『わしゃ死んでもいい、手術は嫌じゃ!』って特に理由もなくびびっちゃって、家族に説得されて承諾する、という感じじゃないですか」 「それ、“禿”関係あるか?」 「だいたい禿げてます。でも、今回は家族ぐるみで反対されたんっすよ」 「となると、やっぱりよくある宗教の問題かな?」 「そう!当たりです!ビンゴ!さすが神の手!」 「関係ないだろ?」 「へへへ。で、結局一週間くらい説得してようやく家族も承諾してくれたんですよ」 「君も熱心だな」 「へ、どうも。だって手術すればまずちゃんと助かる初期のがんでしたからね。やっぱり助けてあげたくって」  部長ほどのスピードではないが、若い外科医はきちんきちんと止血縫合をすすめていく。ふと、彼は顔を上げ少しだけ手を止める。 「部長はオカルトとか呪いとか信じます?」 「オカルト?呪い?そんなの信じるわけないだろう!」 「ですよね。患者もオカルトな医者はいやでしょうしね。外来で『今からハンドパワーで治します』とか、『あなたが病気なのは霊がついているからです』とか・・・」 「いやだな」 「まあ、医者にはいないと思いますが、患者にはけっこういるみたいですよ。で、この患者が手術を拒否した理由ってのがですね・・・」
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