天正十四年、肥後熊本

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 耶磨登の殿様は、山の(ほこら)で怪しげな呪文を唱えたり、薬をつくっている妖術師を城に呼んだ。白装束にざんばらの白髪、首には大きなめのうの勾玉(まがたま)をぶら下げていた。 「師よ、ついに戦が始まってしまった」 「殿、戦はしないに越したことはありませんが、始まってしまっては仕方ありますまい。しかし、この国はあまりにも小さく、あまりにも気高い。戦国の動乱に巻き込まれて生き抜いていくことは難しいと存じまする」 「それは重々わかっておる。平和な時代があまりにも長すぎ、わしは策を怠った。もはや、これまで、なのか?」 妖術師は周囲を見渡し、お人払いを願いでた。家来たちが下がると、妖術師は口を開いた。 「殿、恐れながら、たったひとつ、この国を守る方法がございます」 「なんと、それは?」 「いにしえの大和の時代からこの国に伝わる秘術でございます。しかし、あまりにも恐ろしいこの秘術、今まで使われることなく、ずっと守られてきたのでございます。その力は絶大にして絶対、そして、一度封印が解かれれば、子孫末裔、未来永劫引き継がれ、その呪いが解けることはないのでございます」 「そうか。しかし今はまさに国が滅びるやも知れぬ時、おぬしは今がその秘術を使う時と申すのだな?」 「恐れながら申し上げます。それがしは代々殿に使える家臣にございます。決断なさるのは殿ご自身にございます」 妖術師は深々とひれ伏した。
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