天正十四年、肥後熊本

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 ということで、殿はその恐ろしいと言われる秘術の封印を解くように命じた。もはや選択の余地はなかったのだ。妖術師はすぐに祈祷櫓にこもり、呪文を唱え、憔悴しきって櫓から出てきたときにはすっかり夜が明けていた。しかし、朝になってもこれといって何も変わったことは起こらなかった。黒田の陣に雷が落ちるとか、神風が吹くようなことはなかった。小雨がしとしと降る静かな朝だった。  黒田の陣では軍議が開かれた。総大将は副将に尋ねた。 「さて、おぬしは、いつを攻め時と考える?」 「はは、父上。そろそろ梅雨入りも間近、梅雨になれば川の水かさが増し、足軽が歩き渡ることが難しくなりまする。さすれば敵方の守りも堅くなりましょう。今朝も小雨が降っております。明日には大雨になるやもしれませぬ。しからば、本日総攻めしてはいかがかと」 「よく申した。すぐに総攻めの仕度をせい!」 黒田の軍は、川沿いに鶴翼の陣を敷いた。いつもと違い、弓兵はすでに川の中に足を踏み入れていた。対岸には耶磨登の足軽が並び立っていた。 「弓隊、撃て!」     
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