天正十四年、肥後熊本

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 副将の合図とともに弓兵は矢を射った。数百もの矢が次々に放たれ、耶磨登の足軽に降り注いだ。矢は兵の喉元、肩、胸、足などを容赦なく貫いた。その刹那、黒田の弓兵の多くが激しい痛みを感じ、崩れ落ちた。弓兵の胸や喉元から大量の血が流れ、川を赤く染めた。 「火縄銃か?」 副将は馬の上で身を屈めた。しかし、硝煙は見えず、銃声も聞こえなかった。 「ひるむな!騎馬隊進め!」  ほら貝の合図とともに両翼の騎馬隊が川を渡った。敵の足軽は明らかに狼狽していた。戦の訓練などしたこともない雑兵(ぞうひょう)は隙だらけだった。一方鍛えぬかれた歴戦の騎馬の侍は何のためらいもなく雑兵の左首の付け根、鎖骨の部分を槍で一突きした。突然、侍は左首に激痛を感じた。 「不覚!」 侍は槍を地に刺し、右手で矢を抜こうと首に手を回した。しかし、そこに矢は刺さっていなかった。 「鉄砲か?」 しかし、傷は深く、頸動脈からの出血が止まらない。左手は麻痺し、手綱を握ることができなかった。制御を失った馬は暴れ、侍は川に落ちた。とめどなく流れる血が見えた。 「無念・・・」  河原の至る所で、同じように黒田の兵が命を落としていった。 「どうしたのじゃ?」 「わかりませぬ。鉄砲隊の伏兵やもしれませぬ」 「鉄砲だと?銃声も聞こえないではないか。しかもこの雨の中、火縄が湿って使い物にならぬであろう。そもそもあのような小さき国に鉄砲隊などあるはずがなかろう」 「かまいたち(・・・・・)では?」 「かまいたちじゃと?物の()ではないか。たわごとを申すでないわ!」 「しかし、殿、お見方は次々に打ち取られておりまする」 「ううむ、引け!退却!」  ほら貝が鳴らされ黒田の兵は真っ赤に染まった川をもどっていった。 「雑兵を一人ひっ捕らえよ。尋問する!」     
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