天正十四年、肥後熊本

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 後ろ手に縛られた足軽は総大将、副将の前に座らされた。 「おぬしらの国は妖術を使うと聞いておるが、まことか?」 捕虜は無言だった。 「棒で打て!」 木刀を持った家臣が、捕虜の背中を打った。 「ああ!」 捕虜は前のめりに崩れたが、同時に木刀の家臣も、もんどりうってその場に倒れた。その背中は紫色に腫れあがっていた。 「それがかまいたちか?」 捕虜は口を開いた。 「かまいたちではございませぬ」 「ならばなんじゃ?」 「術にございます」 「術だと、たわごとを申すな!」 「たわごとでは・・・」 「ええい、斬り捨てよ」 「なりませぬ!」 「何を!この期に及んで命乞いをするのか!」 「命乞いではございません。耶磨登のものを決して(あや)めてはなりませぬ」 「もうよい、斬れ」  木刀の家臣が、よろよろと立ち上がると、真剣を抜いた。そして、捕虜の首を一刀のもと斬り落とした。 「うわ!」 そこには、捕虜の首と斬首した家臣の首が転がっていた。  それが耶磨登の妖術師が封印を解いた呪いだった。耶磨登の血が流れるものを傷つけたものは、それと同じ傷を負う、というものだった。 黒田軍は軍議を開いた。 「もはやどうしようもあるまい。耶磨登は捨て置こう。それしかあるまい」 「それでは、上様の御威光に・・・」 「何、島津さえ従えば十分であろう。表立っては耶磨登が降伏したという体裁が整えばよい。取るに足らぬ小国じゃ」 「父上、しかし何か策はありますまいか?」 「策じゃと?呪いや祟りに策など通じぬわ」  副将と家臣は平伏し、軍議は終わった。
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