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座らない助手席
コンビニのイートイン・コーナーのカウンターで、カフェラテ片手にスマホを弄る。
深夜にはまだ早いが、制服姿の女子高生が出歩くには目立つ――22時25分。
ガラス窓の向こうは、駅前の大通りに面している。普段は、人も車も途切れることなく行き交う筈だけど、叩きつける雨に滲む今夜は、ヘッドライトの明かりさえ疎らにしか通らない。
『お待たせ、あと5分で着く』
機械音が小さく「LINE!」と告げて、短文が届いた。
『分かった。ありがと』
パンダがギュッとハグするスタンプを付けて、返事を送ると、あたしは温い紙コップの中身を空けた。
台風の進路予想図では、あと2時間であたし達が暮らす街に差し掛かる。
こんな日は、学校も会社も終業時間を繰り上げて、早く帰宅すべきなのだが、受験生のあたしが通う進学塾は休講にならなかった。
そりゃそうだ。
全国模試が来週末に控えている。この結果が、志望校合格を占う最終判定になる。台風ごときで休んでなんか、いられない。
講義が終わると、心配性の母から兄を向かわせたとメッセージが入っていた。このコンビニは、進学塾の下にある。
「LINE!」
機械音に促され、顔を上げると、近づいてくる光が見えた。床に固定された椅子を離れて、覚悟を決める。紙コップをゴミ箱に突っ込み、一気に嵐の渦中に飛び込んだ。平穏なコンビニ店内を出れば、強風から暴風に変わりつつある突風に煽られた。
街路樹の間に一時停車した赤いミニバン。水溜まりを避けて駆け寄り、助手席のドアを開け――すぐに閉めると、後部席に乗り込んだ。
「おい、佳凛!」
「いいの。シート、濡らしちゃうじゃない」
「……お前なぁ」
ルームミラーに映る兄が、呆れた視線を投げてくる。
ハンドタオルで肌に貼り付いた髪や制服を拭きながら、あたしは溜め息を吐いた。
「明日、休みになればいいのに」
「どうかな。時速50kmだっていうからな。朝方には抜けてるだろ」
「来兄、大学は?」
ミラーに切り取られた、運転中の涼しげな眼差しを盗み見しながら、母に「車に乗った」とLINEしておく。
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