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あの日、俺は奴らから逃げていた。
人間を人間だとは思わない“奴ら”から。自分たちにとって邪魔な存在なら、たとえ同じ人間だとしても容赦ないんだ。
「ねぇ、大丈夫?…ってち、血が出てる!!」
そう言ってきたのは、一人の少女だった。年は俺より少し下の14、15ぐらいだろうか?
「そんなことはいい金を出せ。じゃなきゃ殺す。」
手に持つナイフを少女の首筋にぴたりと貼り付ける。
最悪の出会いだった。
今思えば、この時は逃げるのに、生きるのに必死になりすぎていたかもしれない。
「……ごめん、これでいい?」
「ああ…。」
申し訳なさそうに渡す少女に良心が痛む。
……子供相手にこういう事をするのは今後やめよう…。
「……っておい、これのどこが金なんだ?」
渡してきたのはただの石ころだった。
「あ、お兄さんたぬきでもバカでもなかったんだね。ざーんねん。」
「どの辺が残念だ!」
「だって間抜けそうな奴だと思ったもん。」
「クソガキのくせによく言うな。」
「これでもお嬢様ですから~。」
スカートの裾をつまんでお辞儀をする少女。
よく見れば、かなり高級そうな洋服に身を包んでいた。
「お嬢様がこんなんじゃ世も末だな。」
「それはこっちのセリフよ。年下相手にカツアゲするなんて。」
「生活するのに必死なんだよ。ていうか、俺に何を求めてるんだ!」
「うーん…、そうだなぁ…。“自由”…かな。」
彼女は遠くの方を見つめながら呟いた。
その姿があまりにも綺麗で、儚くて、俺は目を奪われてしまった________
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