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誰もいない駅のホームに降り立ち、俺は、なんともいえない感慨に包まれていた。
ここに帰ってくるのは、もう十数年振りだ……。お袋にはいつでもいいから帰って来なさいと言われ、親父には二度と顔を見たくないと言われ。その親父もこの世を去り、それから後は実家にお袋一人で暮らしている……。
しかし、それでも俺は、ここに帰ろうとしなかった。こんな風になるまで。何か、こんなきっかけを待っていたのかもしれないのだが。そして俺は、ホームから見える懐かしい町並みを見つめていた。
……何も変わっていない。もしかしたらもっと、まるで違う町並みになってしまっていて、ちょっと違和感を感じるかもしれないとも思っていたのだが。それはある意味、悲しいくらい昔と一緒だった。
俺がこの町を出て行った、あの時と。そこには、何か発展とかそういうものから取り残されてしまった、田舎町の侘しさみたいなものがあった。それはもちろん、俺みたいに若いやつが、次々と町を捨てて出て行ってしまうからなのだろうけども……。
俺の中に、今更罪の意識はなかったが、それでも少しだけ後ろめたさは感じていた。出て行ってしまった事より、何かと理由をつけて、その後二度と戻らなかったことに。
その時、ホームの端にある小さな改札に、一人の駅員が立っているのが見えた。こんな駅、無人駅でもいいのにな……最初はあさっての方向を見ていた駅員も、俺に気がついたらしく、ゆっくりと俺の方を振り返った。
あの駅員は、電車が到着し、そこから降りて来るかどうかわからない乗客を、ずっと待ち続けていたのだろう。決して若くないその駅員の顔に、俺はまた一段と侘しいものを感じていた。それがきっと、あいつの「一生」だったんだろうな……。
俺はそんな事を考えながら、手に提げていたショットガンを構え直し。迷うことなく引き金を引いた。
がううううん……!
俺の耳元で爆音が響き、強い火薬の臭いが漂い。それと同時に、駅員の胸元にでかい穴があいた。胸の穴から血を噴き出しながら、駅員は改札の向こうに、もんどり打ってぶっ倒れた。
これで、あんたの「一生」も、やっと終わったな……。俺は無人になった改札を通り抜け、駅員の死体を大股で跨ぎ。懐かしき町への第一歩を踏み出した。
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