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こうして俺は住宅地を進み、その後も目の前に時たま現れる人物を、容赦なく、ためらいなく標的にしていった。そこに何かしらの感情は、もはやなかった。自分の中で、やるべき事をこなしているだけのような、何か不思議な無常感があった。しかし。
住宅地を歩き始めてから、五人目か六人目だろうか……その人影を確認した時、俺は思わず目を背けた。それは心の中である程度の予想はしていたのだが、現実にはならないで欲しいと思っていたことだった。
「真実……」
十数年前、俺がこの町を出る時に、唯一その決心を鈍らせたもの。残るべきか、出て行くべきか、最後まで迷ったその要因。それが、今俺の前に出てきた彼女、真実だった。この町そのものには何の未練もなかったが、彼女を残していく事だけは、胸が張り裂けんばかりの思いにかられた。最後はもう、逃げるようにして町を出たのだ。彼女に見送りなどされたら、そこで迷いが生じるかもしれない。そう、思ったから。
今、目の前にいる真実は、もうあの時の彼女ではない。ウワサによると、町にそのまま残った彼女は、俺が出て行った後結婚もし、子供もニ人いるとかいう話も聞いた。それで当然なのだ。
しかし……十数年の時を経て、なお一目見て彼女だとわかるその面影に、俺は涙が出そうになった。それはもしかしたら俺が勝手に、俺の中にある真実の思い出の姿を、今の彼女にダブらせていたのだけなのかもしれないが。俺の目には、今の彼女は俺が最後に見た彼女と、寸分たがわぬように見えた。そして、彼女の目が、俺を捉えた。
真実がその時、俺の事を俺だと確認したのか。ずっと昔に自分を捨てていった男だと確認出来たのか、それはわからない。しかし俺は、彼女と目が合ったその瞬間、本当に、ショットガンを放り投げ、彼女に駆け寄り抱擁しようかとすら思った。しかし……それは出来ない。してはならない事なんだ。正気を保て。冷静になれ!
俺は目に溢れそうになった涙を拭うと、ショットガンを降ろし、腰につけていた拳銃を取り出した。ショットガンの散弾で、彼女の顔が吹っ飛ぶのだけは見たくなかったのだ。俺は拳銃を構え、彼女の額に狙いを定めた。
ダーーーン……!
銃声が響き、彼女の額の真ん中に、赤く丸い印が刻まれ。彼女はその場に、どさりと崩れ落ちた。
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