小説家さんと指輪

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「そんなの、偶然ですよ」 「でもフミさんはブルーのCDを買いに来た帰りで、俺は母さんがきっかけで読み始めた能登先生の本を読んでた」  確かにそこだけを切り出せば運命的に聞こえるかもしれないけれど、その運命という言葉を素敵なものにするためにはそこで出会ったのが大河さんに見合っている相手じゃないとダメだ。  そう口にしようとしたけれど、いつもと違って目元が隠れていない彼の表情は真剣なもので。その空気に押されて口を開けなかった。 「知れば知るほどフミさんは母さんにそっくりで。それがうれしいことだけど、すごく心配なことだった。目を離したら、あの時みたいに知らない間に死んじゃうんじゃないかって」  彼が母親のことを今でも引きずっていて、それはこれからもずっと無くなることなく心の片隅に居座り続けることなんだろうとは思っていた。  まさか、その傷を自分が抉っているだなんて思ってもみなかったけれど。 「突然、婚約なんて言い出したのはそのせいですか」 「フミさんを俺のところにつなぎ止める何かが必要だと思って」 「そんな理由で、指輪まで用意しなくてもいいのに」  彼の言葉にそう答えて指輪をはめている左手のほうに視線を向けるとその手に大河さんの手が重ねられる。 「ベット、用意したってことはフミさんもそのつもりなんだよね?」 「それは、その」  一度は彼に視線を向けるが恥ずかしくなって視線を逸らすと、額に暖かくて柔らかいものが触れる。 「じゃあフミさん、服脱がせるからね」  ここで断ることも出来る。けれど私は心臓がどきどきと高鳴るのを感じながらこくりと頷いた。 9話後編【R18】につづく。 https://estar.jp/_novel_view?w=25309710
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