小説家さんと指輪

4/10
107人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「何で音楽やってると、家族がいなくなっちゃうんだろう」 「お母様のこと、ですか?」  どうしてここで彼の母の話が出てくるんだろうと思いながら問いかけるとぐいと掴んでいる服を引っ張られ、引き寄せられないように踏ん張る。 「音楽が好きだったのもあるけど、母さんのこと安心させようと思ってがんばってたのにあんなことになって。ギターも歌も好きだったのに、何でこんなことしてるんだろうって思うようになって」 「大河さんちょっと、引っ張らないでください」 「このままだらだら音楽やっても仕方ないなってなって、フミさんが見に来たあのライブで解散するって発表するはずだったんだよ。でもフミさんも能登先生も好きだって言ってて、それがうれしくて。もう少し続けてもいいかなって」 「だから、離してくださいって」 「だからハンパなライブ見せらんないと思って、泊まり込みで音合わせしたのにスカウトされてフミさんのところに帰れなくなって。連絡したら帰りたくなっちゃうから我慢して、ようやく帰れたのにフミさん誘拐されてて」 「されてません」 「それで探し回ってようやく会えたのに別れようって言われて、スカウトなんてされるから」 「ちょっと待ってください。スカウトされたことはうれしいことなんですよね?」 「うれしくないよもう、フミさん喜んでくれないし別れようって言うんだもん」 「ご、ごめんなさい」  大河さんにしては珍しく怒ったような口調で迫ってこられたせいで反射的に謝るが、どうして自分が喜ばなければうれしいことでは無くなってしまうんだろうと思う。 「謝る気があるなら左手出して」 「な、なんでそうなるんですか」  引っ張られ続けていた服を離してもらえたと思ったら今度は左手を掴まれ、なぜか無理に小さいサイズの指輪を指に通される。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!