小説家さんと指輪

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「た、大河さん、それたぶんサイズ合ってない」 「でも、入ったよ」  ぐい、と指輪を押し込んで彼の手が離れ、自分の手を見ると薬指に銀色の指輪がはまっていた。 「そんな無理に入れて、これ、抜けなくなったんじゃないですか」  そう言いながら指輪を指で挟んで引っ張るが関節で引っかかってそれより先に進みそうにない。 「というか、そもそも何で指輪なんか」  ぐいぐいと指輪を引っ張りながら問いかけると大河さんは 「フミさんって察しが悪いときがあるよね。左手で薬指って言ったら婚約指輪でしょ」  と言う。 「コンニャク?」 「そう。婚約指輪」  聞き間違いかと思って問いかけるが彼はもう一度同じ言葉を繰り返す。 「お、おかしいでしょ。おかしいですよね?私は別れようと思っていたんですよ。この先私が一緒にいたとして足を引っ張ることはあっても役に立つことは無いでしょうし」  彼だって何も考えずに音楽活動をしてきた訳では無いんだろうから、そう言えば分かるだろうと思ったのに大河さんは不思議そうに首をかしげる。 「ブルーのファンは女性のほうが多いですよね?みんながみんなそうだとは思いませんけれど、大河さんに男性の恋人がいると分かったら離れていく方だっているでしょう?デビューするということは事務所に所属するということですよね?その事務所の方だって何と言うか」 「そうかもしれないけど、まぁそれでダメになるならどっちにしろダメだと思う」 「それは、そう、なんでしょうか?」 「そうだよ。だからフミさんは今日から俺の家族ね」 「え?えぇと」  私は大河さんがブルーのメンバーで、しかもデビューするとなったら別れるしかないと思っていたんだけれど。大河さんはそれは構わないと言っていて。  私はてっきり彼に嫌われたと思っていたけれど、そんなことは無くて。本当ならホッとするところなのにそんな時間もなく婚約指輪を渡されて、今日から家族? 「待ってください。婚約者はまだ家族では無いですよね?」 「この場面でそこを気にするの、フミさんらしいよね」  何か変なことを言っただろうか。そう自分の発言を振り返っていると左手をとられて指輪がはまっている指をまじまじと眺められる。
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