小説家さんと指輪

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******** 「玄関、こっちじゃないの?」  店の入り口も、出てきたばかりの家の玄関も通り過ぎようとすると、横を歩いていた大河さんが繋いでいた私の手を軽く引いてそう問いかけてくる。 「あぁ、家の玄関は確かにそこなんですけれど。私の部屋は向こうにある蔵の二階なので」  そう言いながら指さしたのは家の横に建っている、建てられた当初は食材を保管していただろう二階建ての蔵。 「そう、なんだ」  なぜか歯切れの悪いその返事を聞きながらそこへと向かい、キーケースから鍵を取り出してその扉の鍵を開けると目の前に広がっているのはダンボールの山。 「私がここを出たときはこんなことになってなかったんですけれど、知らない間に母がネット通販にハマっていたみたいで」  妙に思われる前にそう説明しながらダイエット器具や家事が楽になるらしい便利グッズが入った箱の山の横を通って奥に進む。 「これが二階への階段なんですけれど、古い建物だからかもうはしごだよね?って言いたくなるくらい急ですし、足を置く板の幅も狭いので気をつけてのぼってくださいね」  後ろを振り返ってそう説明してから手本を見せるために自分が先に二階にのぼり、ベットの前で大河さんがのぼってくるのを待ちながら肩にかけていた鞄を下ろす。  まさか、このまま残ってるなんてな。  数時間前に来たときも思ったことだけれど、勘当されて家を出たのだから自分の部屋がまだあるなんて思っていなかったし、持ち出せなかった私物はすべて処分されたものだと思っていた。 「ここが、フミさんの部屋?」  階段を上りきった大河さんが立ち上がると、その頭は天井ギリギリにあって。つい聞こえた問いかけに答えずにその姿を呆然と見上げてしまう。
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