小説家さんと指輪

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「もう数センチ身長が高かったら、頭をぶつけていましたね」 「フミさんだって、手を挙げたら天井にぶつかるよね。窮屈じゃなかったの?」 「まぁ、そもそも蔵で寝起きしようとすることが間違っているので仕方ないですよね」  私がここを使うことになる前は電気も通っていなかったので、これでも生活しやすいようにしてもらったのだけれど。天井の高さは諦めるしかなかった。 「とは言っても、自分の部屋で立ちっぱなしでいることは無いので私はそこまで気にならなかったんですけど」  そう言いながらふたつに折り畳まれていたベットに近付いてそこに乗っている布団を軽く手で叩いてみる。  これで埃が立ったら手間だけど外に持ち出さないとなと思っていたのだけれど、弟から連絡を受けた母がベットを使えるようにしておいてくれたのか布団は埃が立たないだけではなく外で干しておいてくれたのか少し温かかった。 「これなら座っても大丈夫そう」  大河さんにそう言いながらベットを平らに戻してそこに座ると、彼は背負っていた荷物を足下に置いて隣に座る。 「フミさん、ひとつ訊いてもいい?」 「えぇ、どうぞ」  その問いかけを聞いて、さっきから口数が少なかったのはきっと気になるけれど訊きづらいことがあったからなのかな?と何を訊かれるのか頭の中で候補をあげながらうなずく。 「家族はみんな、お店とくっついてるあっちの家で暮らしてるんだよね。フミさんの部屋は何でこっちなの?」  その質問に大河さんは本当に優しい人なんだな。と思いながらあぁ、と声を漏らす。 「家を改装する前は私が使う予定だった部屋があっちの二階にちゃんとあったんですけれど、ここと一緒で向こうも古い建物なんで廊下は狭いしひと部屋ひと部屋が小さくて。弟と祖父母が生活しやすいようにと改装したら部屋数が減っちゃったんです」 「それで、フミさんがこっちに?」 「えぇ。それがベストな選択ですから」  祖父母と弟がこっちで寝起きするのは不可能だし、両親は弟の面倒を見なくちゃならない。こっちに移動できるのは私しかいなかった。
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