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「僕は遡上警察の一員で、」と手帳を開いて見せ、「捕まえに来たんですよ、今日あなたを」 「...警察ってことですよね?」 「違います、警察とはまったく別の機関です」 「それでも...なんかの罪を咎めに来たんですよね」私には本当に身に覚えがなかった。 「そうですよ、といっても、いわゆる『警察』が見過ごすような罪なわけですが」 「...小っちゃい罪?」 「いえ、人が亡くなった案件です。二人」 ふと、机が揺れていることに気付く。それから自分が膝を揺すっているのに気付いた。しかし依然として私には思い当たる節がなかった。 「2か月前自動車事故で亡くなったでしょう」と男が続ける。「あなたの友人と、その恋人が」 それを言われて初めて、自分が何を追及されるのか勘づくことができた...が、けども同時に、『そんな事で?』と思った。そんな事で警察が動くか?と。そしてすぐに、目の前の男が警察ではなく、遡上警察という初耳の組織だと思い出した。 「ご友人の事故に、あなたは何ら関与していません」 机はまだ揺れている。自分のせいで揺れていることも忘れ、ひとごとみたいにその揺れをじっと見ていた。 「しかしあなたは、」 男の声が、もはや包容力のあるものとは聞こえない。私は、私がなかば憤っているのを、意識する。どうしてこんなことで責められなければいけないのだ、と思っている。遡上警察とはなんなんだ、と苛立っている。 「あなたは、ご友人が事故に遭ったことを、喜びました」 「なにを言うんです」 「しかも単純に喜んだのではない。もっと陰湿な方法で」 振動する机からカップが落ちそうだ。落ちて割れてしまえと願った。そうなればすべてがうやむやになる気がした。 「安心して下さい」男が身を乗り出してくる。「最初に入るのは留置場です。刑務所で暮らすいい助走段階になる」 両手首に錠がされた瞬間、その音をきっかけにしたように、カップが落下した。しかし男がすぐにキャッチした。 逃げ場をなくしたような気になり、窓の外に視線を逃がした。空がやけに白いが、雪は降っていない。その様は事故の日と似ている。
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