隙間を気にする男

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 暗いと道路が凍ってるかが分かりにくいかなと思って歩いて来たけれど、原付で来たほうがマシだったかな。  かじかむ手に息をかけながらアパートの階段を上り、友人の部屋のチャイムを鳴らすとインターホンから部屋の主の声が聞こえてくる。 『あぁ、遅かったね。田中のほうが後から来ると思ってたのに』  あまりの寒さにその言葉にすぐに返事を出来ずにいるとすぐ開けるから。と次の言葉が聞こえてきて扉の向こうからは近づいてくる足音が聞こえる。 「うわ、何その格好」 「だって、こっちの冬がこんなに厳しいなんて知らなかった」 「そっか、僕と違って都会育ちなんだっけ?」 「いや、都会って言うほど都会でも無いけど」  おじゃまします。と言う余裕も無く体をガタガタと震わせながら部屋に入り靴を脱ぐと先にこたつで暖まっていた友人がおぅ、とのんきに手を挙げてこちらに挨拶をする。 「田中、ここまで歩き?」 「チャリ」 「ならさ、それ貸してくんない?お前は今日ここに泊まるんだろ」 「やだ。だってお前、絶対借りっぱなしになるじゃん」 「えぇ」  自転車を借りることに失敗し、やっぱり原付で来れば。と再び後悔をしながらこたつにもぐろうとすると後ろから来た部屋の主に 「壁際の席は俺が入るから」  と言われその隣にもぐる。 「そこ、狭くない?壁との間にほとんど隙間ないじゃん」  自分のほうが押し掛けた立場なのだから狭いところでよかったのに。と台所に向かった彼に声をかけるが、返ってきたのは 「あぁ、ほら、毎日のように人が来るからさ」  という分かるような、分からないような言葉。それでもしつこく問うようなことでは無いし、まぁいいか。と気にしないことにし、こたつの中で手をこすり合わせていると冷えて感覚が無くなっていた手がスムーズに動くようになってくる。
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