電車で見かける彼に〈短編〉

電車で見かける彼に

言われるままに斎藤さんのマンションまで付いて来てしまった。

最寄り駅は一緒でも、わたしの家とは駅を挟んで反対方向にある。

彼はわたしの最寄り駅が同じだなんて知らないだろう。

1DKの部屋にはテレビ、ソファー、ローテーブル、余計なものがないシンプルな部屋。

引き戸の奥は寝室なのかな。

あまりジロジロ見るのも悪いけど、どうしたら良いか分からない。

「俺、先にシャワー浴びていい？」

「どうぞ」

「ソファーに座ってビールでも飲んでて」

冷蔵庫から一本ビールを取り出して手渡された。