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空腹感
草原。
僕の両手は空いている。
前回と同じ見渡す限りの草原の中、僕はひとり立っていた。
ひとりではなかった。いつの間にか僕の前には女の子が立っていて、その手には袋のようなものが握られていた。
「こんにちは」と彼女は言った。
「こんにちは」と僕は答える。
ふわふわとした金髪が穏やかな風に揺られている。赤いワンピースから出た手足は白く、紫外線の影響を感じさせない。陽の光が輪郭を縁取りわずかにつるりと反射している。僕が黙って眺めていると、彼女はその手を僕の方にまっすぐ伸ばした。
「どうぞ。あんたは確かはじめてじゃないわね?」
「そうだね」
「よく帰ってくる気になったわね」
「自分でも不思議なんだけど、ひょっとしたら君に会いたかったのかもしれない」
「なにそれ」少し笑って彼女は言った。「ナンパしてんの?」
「命がけでね。よかったら名前を訊いてもいい? “君”ってほら、呼びづらいからさ」
「あたしを名前で呼ぶ必要はないと思うけれど、知りたいなら教えてあげる。あたしの名前は白河由紀よ」
「僕は黒原啓太だ」
「くろはらけいた?」
「そうだよ。何か変?」
「別に」と白河さんは言った。「用事が済んだならこれ持って」
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