樹海行きのバス

1/11
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/252ページ

樹海行きのバス

   誕生日に親から貰えるのは決まって新しい靴だった。子どもの頃はそれが嫌で、何度か反発してみたこともある。  僕の父親は靴職人で、一部ではそれなりに有名らしい。自分で店舗を構えられる程度の評価を受けられている。それは立派なことだと思うのだが、僕はその仕事を継ぐつもりはなく、かといってやりたいことなど存在しないため中卒で働くことはせず高校に通っている。  世の常識的に大学にも進学しなければならないかもしれない。しかし、行きたい大学もなければやりたい勉強も僕にはない。熱心に受験勉強をするつもりもないため、いったいこの一大イベントをどうやり過ごせば良いものか、そのうち考えなければならないだろう。   趣味はある。読書だ。ただし、字の通り本を読むのが好きなだけで、読書家ではない。SFに詳しくないし、文学のこともよくわからない。夏目漱石も読んだことがない。だから人に趣味を訊かれた場合はそう答えないようにしている。 「趣味は?」 「散歩です」   そんな感じだ。実際に訊かれたことはないけれど。     
/252ページ

最初のコメントを投稿しよう!