僕は死んだ

2/12
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/252ページ
 “行動”2回分の距離であることが僕にはわかる。  遠目で見ると、それはいかにも可愛らしい見た目をしていた。膝くらいまでの高さをした大きなぬいぐるみが動いているようなものである。ぽよんぽよんとそれは跳ね、一定のリズムを保っている。  しばらくそのまま見ていたが、何も変化しなかった。動くぬいぐるみの動きは一定で、眠気さえ誘引されそうなものである。  どうやら僕が動かない限り何も変わらないらしい。女の子は「ルールがある」と言っていた。「やってりゃわかる」とも。  おそらくこれはそのルールのひとつなのだろう。動いてみることにした。  可愛いとはいえ得体の知れないものに接近するのは怖かったので、とりあえず向かって右にスライドしてみた。少し動いただけつもりだったが、僕は“行動”1回分の距離を移動するまで止まれない。  ぬいぐるみは僕の方へまっすぐ近づいてきた。“行動”1回分の距離に近寄っていることがわかる。明らかに僕へ向かってきている。 「わっ! うわっ!」  威嚇するためとにかく声を上げてみたが、何も変化はしなかった。僕の中に恥ずかしさだけが残る。思い切って大きな声を出せなかったことも羞恥心の一部をくすぐる。一体どうしろというのだろう。     
/252ページ

最初のコメントを投稿しよう!