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河相さんに喜んでもらえて僕もことさらハッピーだった。上機嫌になった河相さんは食事が済むまで雑談モードでいようと思っているのか、仕事の準備をせず僕との話を続行した。
「西片さんは?」
「店長はお出掛けにいっちゃいました。何か急いでる感じでしたよ」
「デートかな?」
「店長って彼女いるんですか? 未婚ですよね」
「いるよ。わたしがくっつけたんだ。ああでもそうか、今日はあれだ」
河相さんは思い出したように「サッカーだ」と言った。
「へええ。店長、サッカー好きでしたっけ?」
「“にわか”だけどね。去年の冬から好きな筈だよ」
「全然知りませんでした。その頃って僕もう働いてますよね」
「余裕でね」と河相さんは言った。「だってほら、君がはじめてひとりで働いた日のこと覚えてない?」
「忘れられもしませんよ。いきなり言われたんですから」
「あれ、サッカー見に行ったんだからね」
「はあ?」
僕は素っ頓狂な声を上げた。
「当時、黒原くんはまだわたしに会ったことなかったんじゃないかな。確かその日にわたしはバイトの存在を知ったんだった」
「そうですか」
よくわからない衝撃の事実に僕は軽く混乱していた。当時僕は高校1年生で、『マカロニ』でバイトをはじめて半年程度のものだった。
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