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河相さんは明らかに気の抜けていた僕を咎めるでもなく、ミルクをたっぷり入れたコーヒーを美味しそうにちびちびとすすった。
「終了ですか?」
「一応ね。わたしはサッカーが専門ということでやってるんだけど、最近はほかの仕事も入ってきてね、これはたいへん疲れるものだよ」
「嬉しい悲鳴ですね」
「そうだね。ねえ少年、何か悩みでもあるならお姉さんに話してごらんよ」
「別にそんなものありませんよ」
「あら、そうなの」
まあいいや、と河相さんは呟くように言ってコーヒーカップを口に運んだ。
しばらくそれを眺めていたい気持ちもあったが、店内にはほかに客がいる。その相手をする前に、ひとつだけ訊いてみることにした。
「河相さんってこのへんのバスを使うことありますか?」
「そうだね、時々はね。でもこの店はバス停から遠いから、想定外の事態でなければ交通手段を用意するね。黒原くんもそうなんでしょ?」
「確かに僕もチャリ通ですね」
そう答える僕の視線の先には『樹海』行きのバスが停車している。
今夜はシフトに入っていない。僕は店内業務をこなしながら、もう一度バスに乗ってみるのも良いかもしれないと考えていた。
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