第六章

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 デルは初めてイーチャウの貴族としての考えを垣間見た気がした。そして正義は1つではなく、無限に存在するのだと魔王軍の言葉を思い出す。  イーチャウの言っていることもまた1つの考えであること。デルはそれを無理矢理自分の心の中に飲み込みつつも、それでも自分の考えとは相いれないと位置づけた。 「そうかもしれない………」  デルは相手の言葉に一理あるという意味を込めた言葉から話し始める。 「だが、その考え方もまた貴様が平民と呼ぶ者達と同じ考え方だ! 相手が尽くして当たり前………そんな考え方では、互いの関係など一向に直るはずもない!」 「………私もそう思います」  弱々しい声は謁見の間、その入口から聞こえてきた。  デルが振り向くと、そこには蒼い鎧を纏ったイリーナの肩を借りて立つバイオレットの姿があった。彼女の体に身に付けていた盾は既になく、全身傷だらけの体で、なおそれでも自信に満ちた声でデルに向かって笑みをこぼす。 「4階にいた金竜騎士団の騎士達は全員倒しました………とはいっても、後半はイリーナさんとフォースィさんに助けてもらいましたが」 「正確には中盤からかしらね」  フォースィが呆れながら2人の後ろで肩をすくめた。 「タイサといいギュードといい、どうしてあなたの知り合いって、こう馬鹿が多いのかしらね」 「お師匠様、それは私達も入って………うぎゃぁ」  イリーナは羽兜の上から小突かれる。 「お師匠様、痛いです」 「一言多いからよ」「………お前らなぁ」  緊張感を欠いた会話に、デルが思わず目をつぶって首を傾けた。  だが彼女達の支援は素直に嬉しかった。包帯を巻き、血が滲んだバイオレットの両腕の怪我を見れば明白である。  時間を稼ぐために一体どれだけの攻撃を盾で受け止め続けていたのか、彼女の怪我は服の上から革ベルトで固定したために、布が破け、皮膚も剥がれた腕になっても、耐え続けた証拠であった。
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