終章

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「俺の時と随分と反応違うんじゃないか?」  部屋の奥に入っていったクロムの後ろ姿を恨めしそうに見ながら、ギュードが口を曲げる。 「おや、あなたも私に紅茶を入れたかったのですか?」「違うよ」  即座に否定する。  ギュードは騎士の鎧のまま、兜を投げたソファーに音を立てて座り込んだ。 「それにしても、随分と計画通りに事が進んでるんじゃないかい?」  イーチャウを自覚のないまま手中に納め、デルや王女達良識派を外へと逃がすことに成功した。思い通りに事が運び、さぞ気分が良いだろうとギュードは皮肉を込めた。 「そうでもありません」  意外にもクライルの顔は曇っていた。 「本来ならば、私が王女殿下と婚約してから動く予定でした」  婚約者の宰相がイーチャウと共に王国を我が物ように扱う。それを騎士総長率いる良識派が弾劾する流れだったとクライルが話す。 「ですが、シーダイン騎士総長が亡くなり、魔王軍との戦いがここまで激しくなった時点で私の計画は変更せざるを得ませんでした」 「成程、そしてその騎士総長の代わりがあいつだったと?」  互いに目を合わせることなく会話が進む。そこに紅茶を入れてきたクロムがメイド服の姿で戻り、クライルの前に湯気の立った紅茶を差し出した。 「俺のはないのか」「ありません」  クライルの側で手を前で組んで立ったクロムが平然と答える。 「クロム、そこは彼の前にポットだけ置くのが効果的ですよ」「成程。これからはそうします」 「………ひどい話を聞いた」  今までの恨みを返されたような会話にギュードが軽く舌を打つ。 一方のクライルは紅茶に口をつけ、その味に満足する。 「国王陛下が殺されたのは私の失態です。彼らの情報から、魔王軍は正面から正攻法で来ていると思い込んでいました」  東に戦力を集中させ、さらに正々堂々を装いつつ、実際は王都への侵入と要人の暗殺を狙っていた手際にさすがのクライルも大きく息を吐いた。
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