第六章

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 だがそうではなかったイーチャウの姿に、デルは悔しさを滲ませながら訴えた。 「その力があれば、多くの人を助けられるだろう! 権力と使いきれない金を持つ貴様ならそれができたはずだ!」  イーチャウは自身の権力を利用し、弱者を弄び、金の力で多くの口を塞いできた。権力は万能ではないが、1人でも多くの人間を助けるためにあると、デルはそれを自分自身の正義として掲げてきた。魔王軍と戦い、考え方に相違があったとしても、デルにとっては今でも重要な信念であった。 「何を言うかと思えば………くだらない」  それをイーチャウは顎を引いて鼻で笑い、顎を突き付けてデルを見下ろした。 「それがお前の正義か? 実に平民らしい、自分達に都合の良い物語に毒された恥ずべき思想だ」  デルの言葉を辛辣に返すと、イーチャウは片手を腰に当てる。 「ならば聞くが、お前達平民は貴族に何をしてきた?」 「………どういう意味だ」  デルにはイーチャウの求めていた答えがすぐには出て来なかった。 「そのままの意味だ。お前達平民は、貴族が権力や金を持てば不公平だと不満の声を上げ、貴族が権力や金を失えば自業自得だと嘲笑う。かたや平民が権力や金を得れば当然の権利だと公言し、失えば差別だと喚き散らす。我々貴族からすれば、何をしても助けられ、何をしても許されるのは平民の方だと思うのだが………」  イーチャウが手を握り、そして開きと演説染みた声で左右に歩き始める。  そしてデルに顔を向けて眉をひそめた。  まるで、人生の落伍者を遠くから眺めるような憐れむ目で。 「平民でありながら上位騎士団の団長と担がれている貴様はどう思っているのか、実は一度聞いてみたかった」  手の平を見せ、デルに回答を求めた。
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