第六章

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「貴様たち貴族が、一体どれだけのことをしてきたのか………」「平民は何も悪い事はしてこなかったと?」  予想通りの答え方だったと、イーチャウは目を細め悦に入る。 「人を騙すこともなく、人から金品を巻き上げることもなく、女子供を傷つけることもなく、ましてや人を殺すこともしてこなかったと………まさか、そう思ってはいないだろうな?」  わざとらしく声を上げながら、イーチャウは喉を震えさせて笑っていた。 「実に平民らしい答え方だった。いや、別に馬鹿にしている訳ではない………とは言っても理解はしてもらえないか、してもらえないのだろう。だからお前達平民は貴族を敵視するのだ」  随分と笑わせてもらったと、イーチャウは大きく息を吸い、そして止めるように周囲が静まり返る。  そしてイーチャウはデルを睨みつける。 「お前達平民は犬や猫と同じだ。愛でもしよう、愛着も沸こう。だが気に食わないからと吠えてくる動物に対して、自分の身を削ってまで高級な餌を買い与えるか? 気に入れられるために自分の家よりも立派な犬小屋を与えるか?」  それは違うとイーチャウは断言する。 「我ら貴族に平民が尽くすからこそ、我ら貴族は平民を愛でるのだ。その逆は決してあり得ない………それが私の、貴族としての正義だ。貴様には分かるまい」  そしてイーチャウはデルに2歩で接近する。  イーチャウが振り下ろす剣に、デルは動揺しつつも剣で弾き、その場から後退する。 「むしろ貴様には自分の言葉を返してやろう」  イーチャウはデルから離れずに、目を大きくさせながら剣を振り続けた。 「デル………貴様は何故それだけの力がありながら、自分のために力を使おうとしない」  デルがイーチャウの袈裟斬りを右に避けると、彼の左肘から光の束が一直線に解き放たれる。さすがに2撃目を予測し始めていたデルは、それも避けることに成功する。 「………どうせ平民は、お前に感謝の気持ちなんてこれっぽっちも思ってはいないだろうさ」  自分にとって都合の良い英雄が欲しいだけだとイーチャウが吐き捨てた。
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