第六章

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「イーチャウ騎士総長代理。私も貴族の端に位置する者です。貴方の言い分は分からなくもありません。私の父や母も謂れのない言葉や態度を街の人々から受けたこともあります」  満身創痍のバイオレットが真剣な表情でイーチャウを凝視する。 「ですが、それでも我々貴族は率先して範を示さなければならないのです。力があり、お金のある者ならば尚更、相手を理由にしてはならないのです」  彼女の言葉に、イーチャウは口元を緩めて笑みで返した。 「………成程。志は立派だが、結果として貴様の家はどうなった? 明日の生活もままならず、使用人たちに支払う給金もなく、同じ貴族に泣きつくしかなかった小娘に、どれほど相手を説得できる力があるか」  イーチャウが剣を構えた。 「分かり合うつもりは毛頭ない。どんなに理屈を述べても、力を持つ者、生き残った者、勝った者が全てだ。私はそんな人間の歴史を真似ているにすぎない………もしも自分達が正しいと思うのならば、力でそれを証明させるがいい!」 「………イーチャウ!」  デルが声を上げる。  そうではない、そう言いたかった。 「言葉は不要と言った!」  イーチャウが剣を上段に構えながら、デルに走り込む。 「くそぉぉぉぁ!」  デルは両手の剣を左右に開くと、イーチャウの剣を左の剣で滑らせるように受け流し、そのまま相手の懐へと飛び込んだ。  そして放たれるイーチャウの2撃目。  イーチャウの肘から放たれた光の槍をデルはさらに体を低くして躱すと、デルは空いた右手の剣で地面の土をすくうように振り上げた。 「はっ、その程度では!」  イーチャウは右膝からも光槍を放ち、デルの剣を受け止める。 「何度でも!」  デルはもう一方、相手の剣を受け止めていた左の剣をそのまま滑らせながらイーチャウの首を狙った。 「無駄無駄ぁ」  イーチャウは左膝を蹴り上げるとそこからも光槍が放たれ、デルの剣を無理矢理横へと弾く。
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