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第二章
2週間後、クライルの言っていたことは現実のものとなった。
嫌な予感はタイサがアリアスの街で蛮族と戦い、黒の魔剣を使ったところから薄々感じていたギュードだったが、ゲンテの街が魔王軍を名乗る蛮族達によって襲われ、命からがら逃げてきた冒険者達が王都のギルドに報告したことで確信に変わる。
「本当だ! 嘘じゃねぇ!」
ゲンテの街から逃げてきたという戦士風の男は王都のギルドに入って来るなり、カウンター越しにオーナーに突拍子もない話を切り出した。オーナーは黙って彼の話を聞いていたが、それを横で聞いていた周囲の冒険者達がこぞって笑い出し、それが部屋中に伝播したことで男は唾が飛ぶように声を荒げる。
共に逃げてきたという冒険者達も本当だと、見てきたことを全員に聞こえるように懸命に訴える。
だが、空からゴブリンが降ってきたことや鉄の鎧を纏ったオーク、家と同じ大きさのオーガが魔王軍を名乗り、組織的に街を襲ったことを信じる者は誰一人いなかった。
ただ2人を除いて。
オーナーはいつもの席で座っているギュードに視線を送ると、ギュードは持っていたフォークをカウンターの奥に軽く突く素振りを見せる。
それを見てオーナーが冒険者達の肩を何度か叩き、困った顔をつくりながら頷いた。
「分かった分かった。話は聞いてやるから、裏に入りな」
駄々をこねる子どもをあやかすように、オーナーが親指で自分の後ろ、ギルドの奥の部屋を指す。
周囲の冒険者は優しいオーナーだと溜め息混じりに笑っていたが、ギュードだけは無表情でカウンターに代金を置いていくと、遅れるように後をついていった。
ギルド受付の奥の部屋。オーナーの部屋でもある場所に連れてこられた冒険者の男は自分の名前をドルフと名乗り、オーナーにすすめられてソファーに座ると、ギュード達に事実を再び訴えた。
ゲンテの街の住民がことごとく蛮族に殺されたこと。蛮族達は魔王軍を名乗り、駐留していた王国騎士団も大きな被害を出したこと、フォースィやタイサとの出会いも含めてドルフは詳細に話す。
「ギュード………こいつぁ、一大事という問題では済まないと感じるのは思い過ごしだと思うか?」
「いや、その感性は正しいと思うね」腰深くソファーに座っているギュードは、組んだ手を左右に開いた。
ギュードもオーナーも彼らの話を信じた。
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