第三章

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第三章

ーーー何が起きても絶対に反応するな。    王都に戻ったデルやシエン、傷付き半壊した騎士団達を待っていたのは住民達による歓呼の嵐でも、安否を心配する目でもなかった。  恨み、侮蔑、王都の住民の眼はまるで犯罪者を見る目のそれだった。 「………デル団長」「何も喋るな、シエン」  余りの異常な光景に我慢できなくなったシエンが、隣で共に馬を進めるデルに声をかけたが、デルは表情も顔の向きも変えることなく、小さく短く返答する。  誇りある王国騎士団が蛮族に大敗した。それだけでなく東部のゲンテ、ブレイダスの街を奪われる結果になった。結果を文字にすれば、その事実が歴史的大事件であることは疑いようがない。  大通りの左右に集まった群衆がどこまで知っているのか、または知らされているのか分からなかったが、少なくとも王国の危機を感じている住民は見当たらなかった。  生き残った白凰騎士団の騎士達は体のあらゆるところに包帯を巻き、場所によっては血が滲んでいる。歩けない者は馬車の動きに身を任せて体を揺らす。彼らにとってはようやく辿り着いた安息の場所の筈であった。  だが、この異常な視線に体は縮こまり生きて帰ったことが申し訳なくなるような錯覚に陥っている。  最後まで蛮族の侵攻を食い止め、生き延びたはずが、周囲からは温かく迎えられない。  それは敗者の凱旋であった。  群衆の奥、やや離れた所で泣き崩れていた女性の姿がデルの視界に入った。  恐らく自分の近しい者が前回の、先に戻っているヴァルト卿の騎士の中にいなかったのだろう。一縷の望みが断たれた女性の悲痛な姿が、無反応を装っていたデルの表情を歪ませる。
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