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第四章
デルの足、いや体全体が重たかった。まるで囚人のように鎖と重りをかせられているかのような気分だった。
王都に戻って馬から降り、会議を終えて、鎧を脱いでから激しい疲労が全身を襲っていた。
思えば戦いの連続であった。東の集落で奇襲を受けて敗走し、ゲンテの街を襲撃し、ブレイダスでは殿まで務めた。1つ1つの戦いを振り返れば、いつ戦死してもおかしくはなかった。
自分の代わりに多くの部下や騎士、街の住民達を失ってしまった。もっとこうしていればと何度も自責の念にかられ、王都に帰る時も満足に寝ることもできなかった。
デルの体には無数の死がまとわりついていた。
デルは出発前の会話を思い出し、再びワインとチーズをと思ったが、人通りの多い商業区には近づけない。デルは大人しく家に帰ることにした。
家の前に着くと、そこに2匹の愛犬の姿は見当たらなかった。
庭の奥にある家には明かりが灯っているが、気がつけば門の石が欠けていた。
「まさか」
デルは庭を走り抜け、家の扉に手をかけた。
「あら、おかえりなさい」
息を切らして玄関に入ると、妻のエルザが犬を抱いていた。もう1匹の犬は自分も抱いて欲しいとエルザの腰に前足を置いて待っている。
「あ、あぁ………ただいま」
デルは自分の思い過ごしを誤魔化そうと、首を左右に目向けて平静を取り繕った。
「どうしたの、そんなに慌てて」
「いや………いや、何でもないんだ」
エルザは胸元の犬を優しく床に下ろす。
デルは妻の顔を見ることができなかった。当たり前の顔、特に化粧もしてない彼女を見るだけで、自分がまだ生きていることを強く実感した。
デルの視界が暗くなり、懐かしい匂いが顔に当たる。
「本当に………本当に無事でよかったわ」
「ああ、何とか生きて帰れたよ」
デルはエルザの胸に体を預けた。白い毛を使った彼女の上着が調度良く顔をうずめる。
「そうそう、あなたにお客さんが来ているわよ」
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