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第五章
その日の夜、老舗の名店『アルトと森と湖』は貸し切りとなっていた。
冒険者ギルドの受付は通常通り解放していたが、酒場に繋がる入口は閉じられ、外の扉には貸し切りの札がかけられている。
「皆さんには本当にご迷惑をお掛けしました」
金髪のツインテールの女性は座ったままテーブルの前で深く頭を下げた。
この店に時々働きに来るだけだが、看板娘としての人気を持つ女性。しかしその正体はアイナ王女その人である。
その事を知っているのは、同じテーブルについているギルドのオーナーとデル、そしていつものカウンターに座るギュードの3人のみ。
「成程………王女様は見かけによらず、面白いことをするのね」
何度か見た覚えがあったと、フォースィもデル達と同じテーブルで口元に手を当て頬を持ち上げる。
「そして………こっちの騎士のお嬢さんが、タイサを追い出したバイオレットね」
表情を変えた上で、フォースィはわざとらしく嫌味な言葉を用いた。フォースィの正面、変装したアイナ王女の横に座るバイオレットは騎士の鎧ではなく、ズボンをはき、体を締めるような服と上着で貴族とまでは見られないが、上品な家庭の身なりでこの場に座っている。
バイオレットは彼女の言葉を受け止めつつも、やり場のない視線を静かに泳がせていた。
「おい、フォースィ」「いいんです。彼女の言葉は事実ですので」
デルが声をかけたが、逆にバイオレットはそれを静止させる。
「家のためとはいえ、私は隊長の動きを彼に報告し、結果として隊長を追放することに加担しました………後悔はしていませんが、自分のしたことが恥ずべきことだったことは分かっています」
「だが、彼女のお陰でイーチャウを弾劾できたのは事実だ」
親友を陥れられたデルも複雑な気持ちだったが、彼女が会議で見せた表情や言葉、イーチャウへの反感の気持ちは本物だと周囲に理解を求めた。
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