プレミアムフライデー・ナイト

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例のやつ――、つまり女の子特有の無意味な譲り合いが始まるなと眺めていると、そんなことはなく、麻里奈さんと呼ばれた線の細い女がそれを受けて迷いなく奥へと入っていく。 気の強そうなその横顔を目で追いながら、なるほど、と思う。佐伯から歯科医院で働いている子が職場の同僚を連れてくると聞いていたが、彼女たちには『同じ』なりにもきちんとした序列があるらしい。 「彩葉さんも」 背中を押されて、眉を下げつつも笑顔を浮かべた小動物っぽい女が俺の正面に来る。どこぞのアナウンサーみたいな、世間一般的には女ウケ最低レベルの甘えた顔立ちで、佐伯好きそう、と見た瞬間に思った。 淡いピンク色のストールをほどくその姿を不躾に見ていると、しっかりと目が合った。 あ、カラコン。遠目からでもすぐに分かる。あれを入れている子はバレないと思って入れてんのか、一度本人に直接聞いてみたいと前から思っていた。…いや、実際は聞かないけど。
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